Essay by Yoshiaki Ando![]()
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| 安東 能明・作
会社に勤めていた頃、これといって旅好ききでもないのに、日本中を旅して歩けたらいいなとぼんやりと考えていた。長期休暇が取りづらかったせいもあって、その反動で自由気ままな旅にあこがれを抱いていたのかもしれない。サラリーマンを辞め、フリーの作家になって、自由な時間はたっぷり取れるようになった。その気になれば、上司にお伺いを立て、同僚のことも気にせずに、休暇届を出すこともなく、どこにでも好きな所へ、好きなだけ行ける。もちろん、費用のことはありますけどね。 いざ、そうなってみるとあまり行く気が起きないから人間、不思議なものだと思う。そんな折、一風、変わった方法で日本縦断の旅に出ることになった。 去年の今頃の話である。 物流をテーマにした小説を書こうと思い立った。物流といえば、主人公はやはり長距離トラックの運転手しかない。取材を始めてみて、物流やトラッカーの世界は、わかっているようでわからない、という妙なジレンマに陥ってしまった。確かに大型トラックは日常どこでも見かけるし、物流センターの業務も、想像くらいはついた。けれども、そこから先が一歩も進まない。 そこで一念発起、ある人に頼み込んで、長距離トラックに便乗させてもらうことになった。出発は北海道の網走だった。深夜十一時、宅配便の荷を積んだ大型トラックに乗り込んだ。そこから旭川まで深夜の北見国道を走った。運転手と世間話程度の雑談をしながら、ああ、これが名立たる層雲峡かとか、車窓に映る景色を眺めながら五時間過ごし、旭川でトラックを乗り換える。今度は高速道路を使って一気に室蘭まで南下して、そこからフェリーに乗り八戸着。そのまま仙台まで走った。 そんな具合にして、六台のトラックを乗り継ぎ、九州は鹿児島まで縦断した。面白い運転手や苦労話など話は尽きなかった。いや、物流の世界は奥深い。詳しい話は次回につづく。 ![]() 日本一周 その2 同時多発テロのせいで、アフガニスタンの街が頻繁にテレビに登場する。市内を行き来する人や風景に混じって、難民に届けるための食料や物資を満載した大型トラックの姿をよく見かける。どのトラックも、きれいに飾りつけられていて、ああ、この国にも「文太あにぃ」はいるんだなあと思う。そうしたトラックを見ていると、飢えている人の元へ確実に荷物を届けるだろうなと確信してしまう。 この一年間、物流の世界をテーマにした小説を書くため、トラックを乗り継ぎ、日本列島を北は網走、南は鹿児島まで便乗したり、運送会社を回ったりした。そこで知り合った面白い人物を紹介してみたい。 一台のトラックから出発して、今では東証二部に上場した運送会社の社長さんがいた。この人の若い頃の仕事ぶりは凄い。一日四食、とにかく、眠らずに走りまくる。どうしても眠くなったら、火のついた煙草を指の間に挟んで、眠りにつく。五分後、燃え尽きる寸前の火が指にかかり、その熱さで目を覚ます。その五分だけで睡眠は十分だったそうな。 もう一人、こちらはまだ三十そこそこ、九州在住の大型トラック運転手。約一週間かけて東京方面に荷を運ぶのが仕事だ。出発前夜、まず会社から大型トラックを自宅近くの空き地まで乗って来る。そうして、翌朝、東京方面目指して出発する。主に高速を走り、途中、岐阜あたりにある長距離トラック専用のガソリンスタンドで仮眠したり、トラックのベッドで横になる。二日後、東京や千葉で荷を降ろす。空で帰る訳にはいかないから、一日かけて荷物をあちこちで探して積み込み、今度は九州方面を目指して帰路につき、荷を降ろしながら会社に帰り着く。この一週間というもの、彼は一度もエンジンを切らない。寝ているときも積み降ろし中も点けっ放し。アイドリングストップという言葉を、彼は多分、知らないと思う。 そんな面白い運転手たちを主人公にした小説が出来上がった。「漂流トラック」(新潮社刊)。知っているようで知らない物流の世界を覗いてみて下さい。
(了) |