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   Essay by Yoshiaki Ando

                            安東 能明・作

                      最悪の児童虐待


 児童虐待の記事が新聞に載らない日はない。犠牲になっているのは、助けを求めることを知らない幼子たちである。ある者は肉体的暴力を受け、ある者は性的な慰めのはけ口にされる。言葉や態度により心理的な暴行を受ける場合もあれば、食事すら与えられず、栄養失調や餓死する場合もある。自分勝手な大人たちの作った地獄である。

 その地獄の中で、子供たちは、ひたすら加害者たる親を信じ、死ぬまで離れようとしない。自分の身に迫りつつある危機には、まったく無頓着だ。親が自分に対してひどいことをするのは、自分が悪いせいだ、と思い込んでしまう。全ての悲劇はそこから始まる。

 周りの住民や医師が虐待に気づけば、最寄りの保健所なり公的機関に通報しなくてはいけない。法律によって、そう義務づけられたが、実際は以前とあまり変わらない。関係者の間では、「見つけた時が救出の最後のチャンス」とよく言われる。だが、児童相談所、保健所といった第一次機関は、ネットワークを組む、と称して責任を分散させながら、遠巻きで見守るのが実情である。それでも、気がつけばまだ救われる余地はある。

 最近になって、「代理によるミュンヒハウゼン症候群」という難しい名前の児童虐待事例が報告されるようになった。これは、自己顕示欲の強い親(主として母親)が、自分を認めてもらいたいがために、わが子に対して本物の病気を捏造し、医療機関にかかるという、ほとんど想像を絶するような児童虐待の一亜種である。捏造の手口は巧妙かつ大胆。陰で毒を盛ったり、こっそりと検査の邪魔をしたりする。それでも、けなげな母親役を演じているため、加害者は周囲の憐れみを買い、尊敬すら勝ち得る。SFの世界ではない。現実の出来事である。

 この事例を知ってもらはなくてはと思い、私は小説「鬼子母神」(幻冬舎刊)を書いた。ドラマ化されて今週末、テレビでも放映される。事実は小説よりも奇なり。嘘のようなことが、この世には堂々と存在する。

                                                  (了)