![]() ここでしか読めない未発表のエッセイです. ![]() |
| われらが主人 by y.Ando 「暑くて、仕方ないから、はなれてくれない?」ラビが隣で寝ているスズに猫語で声をかけた。 「はい、はい、わかりましたよ」 尻尾のない、正確に言うと、烏と喧嘩してちょん切られた三毛猫のスズは、小太りな体をずらした。 「ご主人様はいいよね、この暑いのに、朝から冷房つけて部屋にこもっりきりだよ」ラビが眠たげに言う。 ![]() こちらは、キジトラ。 「でも、あの人、いったい何屋さん?」 「そうだ、あんたは、まだ知らなかったね。小説とかいうものを書いているらしいよ」 「じゃあ、作家さんなの?」 「まだ、ゆでたてだけどね」 「ゆでたて? なりたての間違いじゃない?」 「どっちでも、似たようなもんさ。五年くらい前に、鷹匠の話を書いてデビューしたんだよ」 天井からするすると落ちてきた家蜘蛛の子をスズは、ぱっと舌にのせる。 「あんた、食い意地張ってるね」スズは何度か噛んで、飲み込んだ。 「お菓子みたいなものよ。で、ご主人、それからどうしたの?」 「勤めていた会社をやめちゃったらしいよ」 ![]() 「困るじゃない。わたしたちのネコ缶、誰が買うのよ」 「何とかするんじゃないかい。今年の一月、五年ぶりに新刊を出したしさ。何でも、児童虐待を扱ったホラーらしいよ」 「それってSFの話じゃない?」 「どうして、SFなのさ?」 「猫の世界に児童虐待はないもん」 「言われてみりゃ、そうだね」 「今は何書いてるの?」 「それが大変らしくてね。物流の世界を書くそうだ。何でも、取材のために、北海道のオホーツクから九州の鹿児島まで、トラックに便乗したっていうんだからさ」 「物流ねえ。どこが面白いんだろ」 「しっ……読者の方が聞いてるよ」 「皆さん、どうぞ、よろしくお付き合いください」二匹はこちらを振り返り、殊勝に声を合わせた。 終わり ![]() |